精進落としというものがあるが、成田山ではそうも言ってられない。
現代では精進落としは初七日の法要の後の宴席を指すのが一般的だが、もともとは寺社巡礼、神事などの精進潔斎が必要な行事の後に肉・酒の摂取を元に戻すこと。簡単に言えばお参りしてからの一杯だ。
成田山新勝寺の参道は言わずもがな鰻屋が立ち並ぶ絶景の地。本来であればお参りをしてから飲食なのだが、行列必至の鰻屋さんはお参りの後ではいつになったら食べられるのやら。そのためにお参りの前に鰻と酒だ。
朝早くにお参りをすればよいという正論はこの際置いておくし、連日お酒を呑んでいるのに精進落としもへったくれもないという論も置いておこう。
前置きが長くなったが、駿河屋は江戸から続く老舗。秘伝のタレは醤油は下総醤油、みりんは三河味醂の白九重味醂というこだわりだ。
大人数の客が訪れるお店だけあってキャパも大きく、通されたのは2階の広い座敷でたくさんの座卓が並ぶ。とはいえ窮屈さは無く、ゆったりとしていて開放感がある。
駿河屋は共水鰻の取り扱いもあるのだが、お店のノーマル味を味わいたく普通のうな重(3450円)を注文。そして一品料理は「鰻煮こごり」と「う炊き昆布」。お酒は参道にある酒蔵の長命泉の吟醸生酒の冷酒(300ml)。出てきたお通しは鰻のヒレが入った「ひれ味噌」だ。
長命泉はまろやかで柔らかいお酒、鰻煮こごりの旨みとあいからまって芳醇な味わいを出す正統派なお酒。う炊き昆布は正直「う」の味を感じることはできないが、お酒がとまらない昆布の佃煮。ひれ味噌も鰻のヒレ味に気づくことは無いがお通しとしては気が利いている。
う炊き昆布もひれ味噌も雰囲気うな肴の気もするが、理屈では無くてうな重を待つ至福なひととき。
さて、お酒を楽しむこと20分ほどで真打の登場。下総醤油のキレのいいタレにふっくら柔らかい鰻、そして硬めのご飯。
口の中で柔らかい身がご飯の上でとろけて拡がる。
うまいねぇ、成田山まで来た甲斐があった。
さあ、とっても満腹。散歩がてらに新勝寺へお参り。