落ち着くお店で、鰻前(うなまえ)の逸品がたまらない。きも山葵とひれ巻きを、奈良の銘酒秋鹿の純米酒で合わせる。
お店は荏原町の商店街をゆっくりと歩くこと5分ほど。人は多くないけれど活気がある商店街は歩いていて気持ちが良い。そんな商店街を抜けた落ち着いた場所にシックにたたずむ黒い建物のさゝ木。店内はシンプルに大きな一部屋ながら、テーブルの間隔やほどよい高さの仕切りによって落ち着いている。
また、お店の方の接し方が、近すぎず遠すぎずで気が楽になる。
注文するとすぐさまに秋鹿が運ばれてくる。お酒は早い方がいい。そしてきも山葵。茹でた肝に山葵醤油。全く臭みはなく、山葵といえども控え気味で上品な風味がキリリと切れ味のいい秋鹿とはピッタリ合う。十分に至福。さらには立派なひれ巻き(ひれ焼き)が登場。大きなひれ焼きといえば雑司ヶ谷の江戸一が絶品だが、さゝ木のひれ巻き負けない立派さ。トゲも刺さらないように気遣われていて少し甘めの味に頬が落ちるうまさ。軽く山椒を振って引き締める。ひれ巻きの終盤にはお重に付くお新香を出してくれて、お重を出すタイミングを聞いてくれる。
酒呑にはたまらない合いの手。もう少しお重は待ってください。
お酒をお新香で〆る。酸味の少ないほんのりと甘い大根。気持ちを切り替える箸休め。
それにしても、お店の雰囲気が落ち着いていて心休まる。
そして真打登場。特上うな重(4500円)は大ぶりな重箱にどっしりと鰻が構える。
ほんのり甘い味のタレに、程よい温かさのパラパラのご飯はまさにうな重。柔らかく蒸された江戸らしい鰻は、表面はムラなく焼かれて鰻のあまさが閉じ込められている。
肴からお新香からうな重までほんのり甘い一貫性。なかなかできることではない。
鰻前(うな前)からうな重まで一貫して楽しめる名店だ。