鰻重は、品格があって贅沢料理というイメージがある一方で、職人が気質でつくる江戸っ子の庶民的な食べ物だ。ここ「吉田屋」は庶民的で家庭的なあたたかさがあるお店。
内幸町の駅から歩いて3分ほどの細い路地にこじんまりとたたずむ年季の入った店。オフィス街のランチタイム間近の11時40分ころ、引き戸を開けてお店へ入ると、一目でお店全体が見渡せる空間から、「いらっしゃい」と穏やかな声がかかる。カウンター5席、窮屈な4人掛けテーブルが所狭しと3つ並ぶ。カウンターには親方と親父さん、それと奥様2人の家族経営のお店のようだ。
1番客だった私はカウンターに座り、上重を注文。
使い込まれたテーブル、焼酎のボトルキープが壁一面に並び、小さなテレビではお昼のニュース。オフィス街にノスタルジックを感じられるお店を発見した高揚感。明治中頃に亀戸天神前で創業し、戦後に今の位置に移ったらしい。まさに昭和ど真ん中を通ってきたようだ。
調理場では親方が鰻を焼き、親父さんが肴を準備する。鰻を焼き始めると、「ジュージュー」とタレが火に落ちる音が店内に広がり、鰻待ちの心が躍る。親方が「ご飯の準備」と声を出す。いよいよだ。
10分ほどで鰻登場。さて、お味は。
醤油味系のコクのあるしっかり味のタレが、口に入れたと同時に広がる。強めのアタック感がいい。表面はよく焼けて香ばしく、身は柔らかい。うまい。ご飯が少し柔らかいのが傷。でも温度はベスト。
12時をまわり、お客さんが増え始めた。テーブル、カウンターも埋まり、2階席にもお客さんが入る。
若奥さんがお客さんの注文を聞いてまわり、女将は2階へ足を運び、親父さんがヤッコを切り、親方が鰻を焼く。小さなお店が活気づくお昼。
心地の良いお昼。ごちそうさまでした。