鰻屋の多い市区ランキング|港区60軒、成田市35軒…ランキングから読み解く「うなぎと歴史」の深い関係

地方には浜松、岡谷のような、いわゆる「鰻の街」がある 。街が発行している鰻屋のパンフレットがあるほどだ。ならば、東京近郊で鰻屋が密集しているのはどこなのだろうか。
そんな素朴な疑問から、食べログのデータを使って調べてみることにした 。単に軒数を数えるだけのつもりだったが、調べていくうちに、そこから見えてくる地域性や歴史的背景があり、今後の鰻屋探訪にさらに深みが出てきた。
今回は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の鰻屋を市区町村単位で集計し、その背景を探訪してみたい。

鰻屋のカウント方法

集計にあたり、以下のように「鰻屋」としてカウントしている。
2026年6月時点でカテゴリが「うなぎ」となっているお店から次の条件で差し引き。(カテゴリはお店に3つ付けられるタグのようなもの)

  • お店の情報が掲載されている(店名だけで、情報がまったくないお店は未カウント)
  • テイクアウト専門店を除く
  • 鰻が料理のメインである(鰻がなければお店のメニューが成立しない)
  • 判定が難しい場合は、お店の看板やのれんに「うなぎ」と書かれていて、鰻屋と認識できる(のぼりは含まない)

カウントした結果は、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県のトータルで1253軒であった。

さっそく順位を発表しよう 。その後に、鰻屋の多いエリアの理由について考えてみたい。

東京都・神奈川・埼玉、千葉県ごとの鰻屋軒数

東京都内TOP5

  1. 港区   60軒
  2. 中央区  59軒
  3. 台東区  49軒
  4. 新宿区  42軒
  5. 千代田区 39軒

港区が1位。ただし僅差で中央区が続いており、この2区が頭ひとつ飛び出ている格好だ。なぜ港区・中央区は鰻屋が多いのか?
東京都全体の鰻屋は654軒。これは他県と比べてダントツの数字である。

神奈川県TOP5

  1. 横浜市中区 19軒
  2. 藤沢市   12軒
  3. 小田原市  11軒
  4. 横須賀市  9軒
  5. 鎌倉市   9軒

1位は横浜市中区 。神奈川県全体の鰻屋さんは181軒である。

埼玉県TOP5

  1. 川越市      22軒
  2. 川口市      18軒
  3. さいたま市浦和区 12軒
  4. 所沢市      10軒
  5. さいたま市大宮区 10軒

観光地としても知られる川越市が1位となった 。埼玉県全体の鰻屋さんは219軒である。

千葉県TOP5

  1. 成田市 35軒
  2. 松戸市 15軒
  3. 柏市  14軒
  4. 香取市 14軒
  5. 船橋市 11軒

成田市がダントツであり、東京の街とも張り合えるほどの軒数を誇る。香取市も大健闘している。千葉県全体の鰻屋さんは199軒である。

次は、これらの結果を紐解いてみよう。

うなぎと言えば「江戸前」。なぜ鰻屋の多い街ができた?

他の食ジャンルと比べて、老舗が多いのが鰻屋という業態の特色だろう 。とすれば、軒数の多さは街の歴史、つまり街の成り立ちに起因していると考えてよいはずだ。まず、頭一つ飛び抜けている港区、中央区の街の特色と照らし合わせてみてみよう。

港区(赤坂・新橋・麻布など)=「大名屋敷跡に咲いた料亭・花街文化の最高峰」

江戸時代、港区の大部分は広大な大名屋敷や武家地であった 。明治維新後、これらの跡地は高級料亭などに生まれ変わり、赤坂や新橋をはじめとする「花街」として発展を遂げた。うなぎはここで屋台の大衆食から、お座敷で供される「高級なハレの食」へと進化を遂げたのである。現在でも港区が堂々の1位なのはこの名残であり、天ぷらやすっぽん等と共に供される「日本料理セット系」や、個室完備の「高級専門店」が密集するレッドオーシャンとなっている。

▼代表的な鰻屋

中央区(日本橋・銀座・京橋など)=「天下の魚河岸と、豪商が愛した老舗ブランド」

日本橋には江戸の食を支える「魚河岸」があり、水運の拠点として全国からヒト・モノ・金が集まる大商業地であった。舌の肥えた豪商たちを満足させるため、うなぎを「裂いて、蒸して、焼く」という江戸前の洗練された職人技がこの地で磨き上げられた。現在も銀座などの一等地における買い物客やビジネス層の「ハレの日需要」に支えられており、歴史と格式を誇る「老舗の専門店」がブランドとして強固に生き残っているエリアである。

▼代表的な鰻屋

それに準じている台東区、新宿区、千代田区にも、それぞれ固有の歴史的背景がありそうだ。

台東区(浅草・上野・蔵前など)=「隅田川の恵みと門前町が生んだ、江戸っ子の大衆食」

すぐそばに隅田川(大川)という天然の漁場を持ち、かつては新鮮なうなぎを水辺でさばいて提供できた「産地直結」の強みを持つ街だ 。浅草寺や寛永寺といった巨大な寺社町であり、行楽客や、気の短い職人たちのスタミナ源としてうなぎが爆発的に普及した。千葉の成田などと同様の「門前町需要」に加え、江戸っ子の「粋」が息づいており、気取らない「食事処・食堂系」や昔ながらの「専門店」が今も地元民に愛され続けている。最近ではインバウンド需要も見逃せない。

▼代表的な鰻屋

新宿区(新宿・神楽坂・四谷など)=「甲州街道の宿場町と、文人墨客が集う花街」

江戸の防御拠点であり、甲州街道の第一の宿場町「内藤新宿」として栄えた歴史を持つ。古くから旅人の胃袋を満たすスタミナ源としてうなぎが重宝された。同時に、神楽坂や四谷などは花街・歓楽街として発展し、多くの文豪や文化人が通い詰めた名店も存在する。「宿場町」としてのローカルな食堂系から、「花街」としての高級専門店まで、多様な人が交差する新宿らしいバリエーションの豊かなうなぎ文化が形成されている。

▼代表的な鰻屋

千代田区(神田・丸の内・麹町など)=「江戸城のお膝元から発展した、政治経済の迎賓館」

江戸城(皇居)のお膝元であり、武家地と神田のような活気ある職人町が混在していたエリアである。近代以降は日本の政治・経済・司法の絶対的な中心地へと変貌した。住んでいる人口はごくわずかだが、昼間には100万人以上のビジネスパーソンが押し寄せる。神田界隈の「職人・町人向けの老舗専門店」の系譜と、丸の内周辺での「企業エグゼクティブの会食・接待需要」が見事に噛み合っており、ビジネスを潤滑にするための不可欠な食としてうなぎ屋が機能しているのだ。

▼代表的な鰻屋

このように、「歴史・地理・文化」の軸で東京都TOP5(港区、中央区、台東区、新宿区、千代田区)を眺め直してみると、「江戸の町割りと食文化の進化」がくっきりと浮かび上がってくるのではないだろうか。江戸期からの老舗が港区、中央区、台東区、千代田区に残っていて、新宿区は比較的新しい鰻屋が多いことにも納得がいく。

神奈川県:別荘地・保養地に根付く鰻屋さん

続いて、神奈川県について考えてみる。

1位の横浜市中区は、外国人居留地や関内といったハイカラな社交場としての歴史がある。また、横浜という大都市であり、ビジネスの中心地であることも要因だろう。
一方で特徴的なのは、小田原・鎌倉・藤沢(湘南)などのエリアだ。明治〜昭和にかけて政財界の要人や文豪がこぞって別荘を構えた場所である。舌の肥えた富裕層を満足させるために、高度な職人技を要する鰻専門の老舗が根付いたと言える 。そのため、明治以降に創業した鰻屋が多いことにもうなずける。

▼代表的な鰻屋

埼玉県:浦和や川越に根付く川魚文化と鰻屋の歴史

続いて埼玉県。浦和や川越など、海から遠い内陸部においては、沼地や河川で獲れる川魚(うなぎ、なまず、どじょうなど)が貴重なタンパク源であり、郷土食として川魚料理が発展した。それが中山道の宿場における食事となったことが、この地の鰻文化の起源といえる。そのため、どじょう、なまず、鯉なども一緒に扱う鰻屋が多いのが埼玉県の特徴だ。

▼代表的な鰻屋

千葉県:成田山や香取神宮の門前町が牽引する鰻屋密度

千葉県は、成田山新勝寺(成田市)、香取神宮(香取市)の参拝客への「おもてなし(ハレの食)」として発展した歴史のある街が軒数を牽引している。
ちなみに、各市の人口は以下のようになっている。

  • 成田市:132,000人
  • 松戸市:498,000人
  • 柏市:434,000人
  • 香取市:71,000人

(千葉県毎月常住人口調査より )

香取市は人口の多い松戸、柏の6分の1、成田市は3分の1程度である。それにもかかわらず鰻屋の数が多いということは、香取市と成田市が異常なほどの鰻屋密度を誇ると言えるだろう。

▼代表的な鰻屋

※2026年7月に火災の被害に遭われた駿河屋(成田市)の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。皆様のご安全と、一日も早いお店のご復興を心よりお祈り申し上げます。

地域とタイプで考えていくと、探訪する深さが増していく

「なぜこの街でうなぎを食べるのか」ということに視点を置いてみると、街の歴史と文化を感じながら鰻屋を楽しむことができる。 さらに、鰻屋をカウントしていく中で、お店の成り立ちや地域性によっていくつかの「タイプ」に分類できることに気づいた。

4つの鰻屋タイプ

  • 鰻屋専門店:うなぎのみで営業している
  • 川魚系:どじょう、なまず、鯉なども扱っている
  • 日本料理セット系:フグ・てんぷら・すっぽん等も看板にあげている
  • 食事処・食堂系:メインはうなぎだが、天丼やカツ丼などの食事も提供している

東京で鰻屋というと「専門店」を思い浮かべるが、これらは都市部や歴史的な街に多い傾向といえる。ローカルになるほど、鰻以外もメニューに入れているお店が目立ってくるのだ。
山中に行けば川魚系が増える。従来は郷土料理だった川魚文化が今も残っており、生きた淡水魚をまとめて管理できるという経営上のメリットも見えてくる。
そして、「鰻・ふぐ」や「鰻・てんぷら」というような「日本料理セット系」。これらは共に「ハレ」の料理であることと、日本料理特有の高度な包丁さばきが必要とされるという共通点がある。
なお、ローカルで最も特徴的なのが、カツ丼、天丼、親子丼などもメニューに並ぶ「食事処・食堂系」である。これは、一緒に行く連れが鰻が苦手な場合でも訪問しやすいという利点や、そもそも人口が少ないエリアにおいては、日頃から地元民に使ってもらうための「生存理由」を兼ねているからだろう。

今回の調査を経て

単に軒数を数えるだけのつもりが、掘り下げて考えるうちに、街の成り立ちを読み解くことになった。鰻屋を「歴史・地理・文化」の切り口から考えたり、鰻屋の「タイプ」として捉え直してみると、ただ美味しさを味わうだけでなく、鰻屋探訪の楽しみ方が一段と深くなる。
そして、地方の鰻屋では、地元のお酒と合わせることを堪能してもらいたい。一杯の純米酒と共に、その土地が育んだ鰻の歴史に思いを馳せる。鰻屋の楽しみ方は、まだまだ無限に広がっていくのである。

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